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『竜とそばかすの姫』感想~監督は何を伝えたかったのか

細田守最新作『竜とそばかすの姫』を観てきました。

前作『未来のミライ』で失望した記憶がまだうっすらと残ってはいましたが、今作はサマーウォーズを彷彿とさせる電脳世界が舞台で、惹かれ合う男女を描いている作品とのこと。

『おおかみこども』までの細田守が戻ってきたかな?という期待、設定とあらすじを見る限り大コケはしないだろうという確信もあり、早速観てきました。

※以下ネタバレあり

 

良かった点

映像、音楽は非常に良かったです。

特に「U」の世界観は素晴らしく、主人公が初めてその世界に足を踏み入れる描写は臨場感もたっぷりで、思わず引き込まれました。

現実で上手く行かない女子高生が電脳世界でスターになるという設定も、掴みとしては100点だったと思います。

悪かった点

上記以外全て。

上映後しばらくは物語にのめり込んでいたのが、ベルが竜の城を探索するあたりでふと疑問が湧きました。

「なぜそこまで竜に執着するのだろう?」

ただ、これは「竜に恋愛感情を抱いた」と考えれば不思議なことではありません。現実世界でおばちゃん達に「好きな人出来たでしょ?」とからかわれていることも、鈴が竜に惚れていることを示唆しています。

……と思ったら、鈴は忍くんが好きらしい。

え???

ここが一番の疑問点でした。

 

そして何より、最後の展開。

鈴たちは、竜が虐待を受けていることを突き止めました。そこで、彼らを助うために鈴が単身東京へ。

なんで???

一人で行って解決できる問題でないのは明らかだし(結局根本的解決になったとも思えない)、周りの大人たちが誰一人止めていないことがおかしい。

「今すぐ助けないとあの子達が危ない!」というスピード感のあるシーンから一転、静かに夜行バスに揺られるシーンに切り替わるのはシュール過ぎて笑いそうになってしまいました。

その後も、居場所を突き止めるくだりは幻だったのかと思わせる右往左往ぶり、雨なのに何故か傘もささず走って案の定転ぶ、あっさり家の外に出てくる兄弟、鈴の目を見てなぜか逃げていく父親。

すべて意味が分からないんですよね。

 

全体を通して「描きたいシーン」が先にあって、あとからシナリオを組み立てたような違和感を覚えました。過程を省いて結果だけ見せられても説得力がありません。

・大量のファンに囲まれて身動き取れなくなるシーンを描くなら、他人の目を避けながら移動する描写を入れておくべきだった。

・「正体を明かしたら全て台無しになる!」という決め台詞を使うなら、近所のおばちゃん達に正体がバレているようではいけなかった。

・同級生の告白シーンに長尺を使うなら、同級生の感情や関係性をもっと描いておくべきだった。

……映画の尺が12時間くらいあれば綺麗に描けたかもしれませんね。おそらく伝えたいテーマを詰め込みすぎたんでしょう。結局何が言いたいのか、最後まで見えてきませんでした。

 

設定・映像・音楽が100点なのに、ここまで台無しに出来るとは。

今後細田守作品を観に劇場へ足を運ぶことはないと思います。サマーウォーズ再上映なら行くけど。

 

※だいぶ辛口で書きましたが、絶賛のレビューもそこそこ散見するので、私の感性が世間と乖離している可能性はあります。むしろそうであってほしい。